「……ぅ」
 けだるさを掻き分けるようにして、シルヴィアは目を開けた。
 朝、らしい。
 窓から朝日が差し込んでいたわけではなかったが、昨晩の月明かりに頼らねばならぬような、あの闇はどこにもなかった。
(曇り……気が滅入る、嫌な天気……)
 いっそ二度寝でもしてしまおうかと、シルヴィアは開いた目を閉じてみた。寝るつもりはなかった。そんなだらけた生活を送っていてはお兄様に認めてもらうどころか見捨てられかねない――
(お兄様!)
 がばり。
 勢いあまって上半身を起こした途端、下半身とか腰とかその辺から奇妙な感覚が走った。痛みとだるさと熱っぽさが複合した、けだるい鈍痛。
「ぃづ……っ、な、にこれ……?」
 声に出してみて、さらなる違和感に気付く。普通に発音したつもりなのに、風邪をひいたときのように掠れた声にしかならなかった。けほこほと咳払いをしてもあまり効果がないうえに、咳の衝撃が妙に腰に響いてシルヴィアは情けなくシーツに突っ伏した。
 そうしてようやく気付く。
 ここは自室の自分のベッドの上で。
 シーツが妙によれよれしていて。
 何故か自分は服を着ていなくて。
 すぐ隣に、同じく衣服を身に着けず、無駄に気持ちよさそうにぐーぐー寝こけてるバカが居たりすることに。
(っな――)
 悲鳴をあげることはどうにか抑えられて、とりあえずシルヴィアは自分の口に手を当てておいた。うっかり叫ぶとまた腰にくる。
 正直、この男の安眠を妨害することには何の悪気も感じなかった。
(なんでこん……)
 疑問に思おうとした瞬間、シルヴィアの記憶に再生スイッチが入る。
 ぎゃあああと悲鳴をあげたくもあげられず、かといって枕か何かをばんばん叩きたい衝動にもかられたがやっぱり激しい運動はバツということで、とりあえずシルヴィアは頭を抱えてうずくまる。
 ぐるぐると回る頭を冷静になりなさいと叱咤するが、
(な、なんてことしっ……わ、ば、ばか思い出すのやめっ、や、)
「いやぁあああ!!」
 耐え切れずにシルヴィアが拳を叩きつけた。
 ぐうぐう眠っているアポロの側頭部に。
「ぃでえっ?!」
 ベッドから突き落とされるだけに留まらずサイドテーブルに激突したアポロは、しばらく頭を抱えたまま震えていたが、やがてがばりと顔を上げる。
「何しやがんだお前はっ!!」
「し、しょうがないでしょ?! な、なんか起きたら、っ……ば、ばかこっちこないでよ!」
 シルヴィアが慌てて布団の中へと潜り込んだ。
「はあ? なんでだよ」
 言いながらベッドに戻ってきたアポロがぎしりとベッドを軋ませたので、シルヴィアはずざざとベッドの端まで移動した。痛みを堪えつつ這って。
 その様はあまりにも情けなさ過ぎて、布団をかぶりながらでないとできない芸当である。
「あ、あんた、じ……自分の格好どうなってるか見なさいよ!」
「んあ?」
 しばらくして、ベッドを降りる気配がした。
 かぶった布団越しに衣擦れらしき音が聞こえるので、どうやらベッドの下に落とした服を身に付けているらしい。
「これでいいだろ。いつまでも隠れてねえで顔見せろ」
 無造作に掴まれた布団が引っ張られて、シルヴィアは必死で抵抗した。
「やっ……ばか、やめなさいよっ……!」
「いいから顔くらい見せろ」
「なんでよ!」
「声だけじゃ元気かどーかわかんねえだろが!」
(え)
 言われたことがよくわからなくて、シルヴィアの手から瞬間的に力が抜けた。当然、かぶっていた布団がずるりとズレて、慌てて我に返るが後の祭り。
 それでもどうにか全身を露出させることだけは免れて、布団を取り戻そうとぎりぎり引っ張りながら、振り向く。
「……なんでえ、元気そうじゃねえか」
「わ、悪い?!」
「何でだよ。いいことだろ?」
 当然のように言われてしまえば、もう言い返す術がない。気まずさだけが後に残ってシルヴィアは顔を俯けた。
「……シルヴィア? おい、どっか痛いのか?」
「痛い」
「なら、ソフィア呼んで――」
「いいわよ!」
 膳は急げとばかりに回れ右をしようとしたアポロの腕を両手で掴んだ。剣幕にか動きの素早さにか、アポロは呆然とシルヴィアを見つめて動かない。
「……あんたが居てくれれば、いいわよ」
「俺、医者とかじゃねえからわかんねえけど」
「いいの!」
 むきになって反論しながら、シルヴィアは掴んだ腕を抱え込むようにして引き寄せる。アポロがベッドに尻をついた。
「一人にしないでくれたら、大丈夫だと、思うから……」
「はあ?」
「い、いいから居なさいよっ! 返事は?!」
「お……おう。わかった」
 肯定の返事を聞いて、シルヴィアの手から力が抜ける。半ばはだけていた布団をずりずり引き寄せて体に巻きつけて、それから――
「シルヴィア?」
「黙ってなさいよっ」
 ベッドに腰掛けたアポロの背に、そっともたれかかる。
 ふと目に留まったシーツの上の手へ、自分のそれをそっと重ねる。
 ぴたりと耳を当てれば、とくとくと規則的な心音。
 伝わる温もりと共に、どこまでも自分を安心させてくれる。
 自分の鼓動をそれに合わせようと、シルヴィアは目を閉じた。とくとく。とくとく。とくとく――
「……ありがと。アポロ」
「あ? なんか言ったか?」
「なんにも」
 耳を済ませて、次第に早まっていく鼓動を重ね合わすことに意識を注ぎながら、シルヴィアは確信する。
(――もう、大丈夫)
 だからきっと、絶対にお兄様を助け出すのだ。
(待ってて、お兄様。シルヴィアがお兄様を迎えに行きます。……この、アポロと一緒に)

 もちろん、こいつもやるって言ってたから仕方なくだけど!と付け加えて――

 シルヴィアは決意を胸に、しっかりと前を向いた。






 シルヴィアたんのツンデレっぷりをひたすら描写していったらこんな長さになってました。
 激しくループ展開ですいませんごめんなさい。
 18話を見てしまうともうこのアポロは偽にも程がありますが疎すぎる野生児が手探りなのは萌えだとおもいます(開き直らない)

 つーかアクエリは、私の中ではネタアニメという認識だったのになあ……(笑)
 今後の展開次第では他カプもちょっとやってみたいです。お兄様と麗花たんとか、ピエクロとか。
 しかしピエクロは何もかもが(私がやろうとすると)某神子様のソレと被る……。
 同士の方からやってくれ言われるとちょっとやる気が出ます(こら)(だって一人じゃやらかしても切ないだけだし!)


 では、同士の方にお楽しみいただけましたら幸いー。長々お付き合いありがとうございました!

(2005/08/12 up)

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