「は、ぁ……っ、はー、ヴェイっ……」
 わし、とキーリの両手が自分の頭を掴んでいる。切ったばかりなのか伸びていない爪が頭皮を刺激して時折快感じみた何かを伝えてくる。それに応えるかのように片胸を含んだ口と、左手の動きに変化を加えた。
「ひゃぅ、あ……!」
 今夜の俺のベッド代わりだったソファに押し付けられたキーリは公言通り我慢を通していた。
 ってもまだ胸しか弄ってないしシャツだって肘のあたりで止まったまま脱がしきれてない、いわゆる半脱ぎ。パンツに至っては触れてもいない。なんかもうどっちが我慢してるんだかよくわからない。
 我慢比べしてるんじゃあるまいし……。そう思いつつもやっぱり恐々ながらこっちを受け入れようとしている必死なキーリを見ると奇妙な自制心が働くみたいで、半自動的に我慢大会になってしまうのは避けられないようだった。
「んっ!」
 びくん、キーリの体が大きく反応した。
 咥えたまま見上げたが前髪が邪魔でよくわからず、胸の輪郭を頂に向かって舌でなぞりながら口を離した。そうして改めてキーリを見る。
「…………何?」
 なんかとてつもなく微妙な目で見られていたような。潤んだ瞳の中に怯えとか嫌悪に近い何かが見え隠れしていたような。
「ハーヴェイって……実はものすごくえっちとか」
 いやちょっと待て俺そんな変なことしたか? つーかまだBであってCじゃないし。やっぱ止めといた方が良かったんじゃないのか今更遅すぎるけど。
「嫌なら止めるけど」
「ち、ちがっ。嫌とかじゃなくてっ、ただそのなんていうか、率直な感想みたいなやつだから気にしないで」
 それはますます悪いんじゃないのか。というかキーリ、おまえ自分でなに言ってるかわかってないだろたぶん。
「続けていい?」
「う、うん……どうぞ」
 礼儀正しく促されてしまってなにか間違ってないか俺たちと疑問を残しつつ、再度キーリの胸に顔を埋める。……いや別に俺は胸フェチとかじゃないんだけどそのなんだ、許可もらったからっていきなりアレすんのもどうかと思うし慣らすのも必要だしって誰に言い訳してるんだ俺。
 口と手の位置を逆転させようかと考えて体勢的におかしなことになるから却下して、さっきと同じように申し訳程度にほんの少し色を付けたくらいの二つの膨らみを捕らえて愛撫する。
 とにかくそこは柔らかくてぽよぽよしていて、いつだったかちょいと頼むと渡されて抱いた赤ん坊の頬っぺたみたいな感じがした。もちろん女の胸を触ったこともそれ以上のこともしたことはあるからだいたいどんな感触かぐらいは知ってるけれど、でもキーリのそれをこうするのは初めてなわけで(当たり前だ)、妙に新鮮な感覚だった。
(ちっさい頃から知ってるからか……?)
 今でも存分に「少女」の部類に入るキーリと出会ったのは、確かに「少女」と称すべき年頃ではあったもののまだまだ「ガキ」の域を脱し切れてない感が否めなかった。それが数年経っただけでこれなのだから末恐ろしい。
「あぅ……っあ、や! やだハーヴェイそこか、むとこじゃなっ、い……!」
 赤ん坊は歯がないだけでそれこそ噛み付く勢いで乳を吸ってるんだけどな。なんで男の俺がそんなこと知ってるかについては聞かないでおいてくれ。ってまた誰に言ってるんだ俺は。
 というかまあぶっちゃけ架空の誰かに逐一言い訳でもしてないと色々と持ちそうにないからなんだけど。本当にガキか俺は。なにをここまで余裕を失ってんだか。
「ハーヴェ……イ?」
 ようやく胸から顔を上げた俺をキーリが不思議そうに見つめる。上気した頬と潤んだ瞳が限りなくマッチして――とにかく、俺の余裕を失わせる何かをキーリは持ってるってことで終了。この話題は終わりもう考えない。……考えないんだって。
「キーリ。この先、本当に嫌だったら意地張らずにそう言って」
「そんなことな」
「返事は」
 やっぱり想像もついてないんだろうキーリが反論するのを強く遮ると、
「……わかった」
 神妙な顔で頷いた。
 よし、と頭にぽんと手を置き眦の乾きかけた涙に唇を寄せたその後、俺は躊躇なくそこへと手を伸ばした。



(……濡れてる)
 想像がつかないまでも最低限の準備はしっかりと体が行ってくれていたようだ。人体の神秘に感謝しつつキーリの様子を窺うと不安一色の瞳と目が合った。
 いきなり脱がすのはマズいかと思ったので、とりあえず下着の上からその輪郭をなぞっていく。引き腰のキーリはすぐにソファの背もたれに行く手を阻まれて、俺にいいように触られたり脱がされたり弄られたりしている。
「やっ、やだハーヴェイっ、そんなと、こ」
 とか、
「ほんとに汚いよやだだめっ……!」
 とか、まあ他にも色々あったけど同じような内容を切れ切れに言ってみたりとか喘ぎ声じみたのが交ざったりとか、キーリは下世話な三文小説が描写するアレソレを全て踏襲するかのような勢いで反応を返してきた。
 ……そろそろ我慢大会も大詰めといったところか。ていうか俺よく持ってるな。
 濡れた数本の指先を舐め終えてからキーリの顔を覗き込む。
「キーリ」
「はー、ヴェイっ……」
 そのまま顔を近づけるとびくりと震えて両目をぎゅっと閉じるもんだから、一瞬迷ったあとに額と頬にキスしてようやく唇に辿り着いた。絡ませた舌からおずおずと意思のある動きが感じられてそのまましばらく張り付いていたら、当たり前だが呼吸困難に陥ったキーリがぐったりしてきて慌ててそこを開放した。
 咳き込むキーリの背中をさすって耳元でごめんと謝る。まだ声が出せないのかキーリはわずかに首を振って答えてくれた。
「いい?」
 何気なく本題を持ち出してみたら少しだけ間があって今度は首を縦に振られて俺は細く息を吐き出して――





 ……どうもそのへんから記憶が曖昧になっている。

 やっぱり痛がらせたし泣かせたし覚えてるのはキーリの泣き顔ばっかりで、でも正直なところかなり気持ちは良かったわけで俺ものすごいサイテーなんじゃないかと頭を抱えたくなりつつも、明け方に目が覚めてすぐ隣の涙の痕をそのままにすやすや眠ってるキーリを見たときの奇妙な切なさが何より胸に残っていて、とにかく俺はこのことを最期まで忘れることはないんだろうなとか火をつけないタバコを咥えたまま(以前寝タバコは禁止とキーリに叱られたから)ぼんやりと思った。


 それから、余談になるけど。

「キーリ」
「……なに? ハーヴェイ」
「おまえ兵長への言い訳考えてあるんだろーな」
「え?」
「どうせ理由も言わずにスイッチ切ってきたんだろ? 付けた途端どういうことだって煩いぞあれ」
「あ……あはは。どうしよう」
「一番煩く言われるの俺なんだぞ……」
「う、うん……えーと、火事が起きて逃げようとしてスイッチを切ったとか」
「燃えてないし」
「じゃあ泥棒が入ったとか」
「信憑性薄すぎ。だいたい取るものないだろここ」
「……本当のこと言う、とか」
「却下」
「でもっ、いつかはわかっちゃうことだと思うし……」
「それでもダメっていうか嫌だ俺が」
「わたしだって恥ずかしいよっ! でも兵長には言っておいたほうがいいかなって気もするし」
「今すぐでなきゃならない理由がないだろ。絶対に嫌」
「……ハーヴェイの意気地なし」
「…………」
 初めてじゃなかったら体をもって前言撤回させてやるところだったのに。
 そんな負け惜しみにも似たことを心中だけで呟きながら、俺は例によって面倒くさくなってそのまま目を閉じることにした。



 ……いいよ別に、後悔には慣れてるし。
 兵長の小言の聞き流しテクもキーリよりは年季が入ってることだし。






 電撃p収録「しらゆきーり姫」内におけるはーべいさんの脳内発言を受けてなんだよそゆことは早く言えよ!(笑)的に某さんと大盛り上がりして気が付いたら二人で競い合うかのように書いていたもの(バラす)
 その節は色々と本当にありがとうございました>某さん

 しかしここまで不自然な逃げ方も初めてです。気力が続かなかったとゆーかぶっちゃけ大したことにはならんだろうし書いてもおもんなさそうだったというか(あんた)
 そもそも私は調子に乗ってはーべいさんを壊しすぎだとおもいました。すいません。出来心でした。

(2006/04/23 up)

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