ぐったりと全身を預けてくるC.C.は、その白い肌をうっすらとピンクに染めていた。
引き抜いた指が乾ききらないうちに、わかる程度に音を立てて舌で舐め取る。……ああ、そうだった。こいつはとにかく緊張感のない奴だということを忘れていた。羞恥心を煽るような行為など何の攻撃にもならない。
だから唯一、あからさまに嫌そうな態度を見せていた「余計なこと」をしてやることに決めたんだった。いけないな、もっと余裕を残して行動しなければ。
「もう充分温まったんじゃないのか? 汗で肌に吸い付くぞ」
腿の裏側を手のひら全体でさすりながら言ってやる。
呼吸がだいぶ整ったのか、C.C.はこちらの肩口に頭を乗せ、俺の顔を見上げてきた。不敵な笑みをもって。
「忘れたのか? 私は芯から冷えていると言ったぞ」
「これだけ発汗しておいて、まだ冷えていると言うのか?」
「そうだ」
ふふ、と何故か楽しそうに笑いながら、C.C.は俺から体を離した。と――
「っ」
「おまえの方も準備は万端のようだな?」
後ろ手で、まだ一つも着衣を解いていない俺を、的確にまさぐられる。しかも器用にジッパーまで下ろそうとしていた。
一瞬止めかけたが、必死でその衝動を抑え込んだ。どうやらこの女はコールドゲームは望んでいないようだし、止めたりしようものなら、反撃のチャンスを与えるだけだ。
顔を見られていないことを心底有難く思いつつ、俺は黙ってC.C.の好きにさせた。……しかし、どこまで器用なんだ、この女。
「さてルルーシュ。体勢はこのままでいいのか? 言えばお望みの体位に応じてやるぞ? さきほど大いに笑わせてもらったサービスだ」
「……なら、そうさせてもらおうか」
俺はC.C.に立つように言うと、すぐ近くにある岩場に手を付くよう指示した。素直に従ったC.C.の長い髪は、首の真ん中あたりで左右に分かれ、肩口や背中を通って下方に流れている。
おかげで見えるようになったうなじに目をやっていると、まるでそれを隠すかのようにC.C.が首だけを振り向かせた。
「これでいいのか?」
「ああ。……前を向いていろ」
「ふふ、何だ? 見られると恥ずかしいのか?」
「……」
うまい反論の言葉を思いつけぬまま、俺は今回も素直に前を向いたC.C.の後ろに歩み寄った。臀部をするりと撫でてから、細い腰を掴む。
「さあルルーシュ。今度は中から温めてもらおうか。存分にな」
その言葉を合図に、俺は遠慮なく容赦なく、自身をC.C.の中に突き込んだ。
「はっ、あ……ぅく、ん、ぁ……っ」
ずぶ、と根本まで咥え込ませたC.C.の体へ、絡め取るように腕を回す。勝手に力が入る腕が、俺の胸とC.C.の背中を密着させた。
そして、ちょうど顔の前にきた奴の耳元になるべく意地悪く囁いてやる。効果はさほどないと知りながら。
「どこが冷えてるんだ? 滅茶苦茶熱いぞ、おまえの中は」
「そ……ぅ、か? ならおまえは、自分の、内臓の温度が、わかるの……か?」
「正確にはわからないだろうが、冷えてるかどうかぐらいはわかると思うぞ」
「なら、……抜くか?」
「そうして欲しいのなら」
「私は、おまえの意志を、聞いている……っ」
そう言ったC.C.は、呼吸は落ち着いてきたようだが、時折ぴくり、と体を震わせている。
俺が見るに、苦しい、というよりは辛いように思える。まあ、どのような意味で辛いのかという点については、正直計りかねるが。
ただこの女は俺に「冷えた体を温めろ」と言った。しかし既に温める必要がないほど、この細い体は熱を持っている。つまり目的は完遂している。この女からすれば、――曰く「将来を誓い合った仲」とはいえ――ただの共犯者の俺と、こんな巫山戯た茶番を続ける必要などどこにもない。
そして俺は、嫌がらせ目的でこの女の言い分に乗った。
――ならば、答えは一つだ。
「いいだろう。こちらも存分にしてやる」
「ふ……そう言うと思ったよ。おまえも、所詮は……っ、男という生き物なんだもの、な」
「は、勘違いするな。さっきからおまえが締め付けてきて、抜こうにも中々抜けそうにないんでな。仕方なくだ」
「ばかを、言うな……っあ、おまえのほう、こそ……っ!?」
減らず口を叩くC.C.を、押し込んだそれでがくんと揺らし黙らせてから、俺は体を起こし、両手で腰を掴み直した。少々難儀しながら引き抜いて、再び熱い中へ入り込む。
「ふぁ、あ、あう……っ!」
しばらくは単純な前後運動のみで様子を見ることにした。気を抜くと乱れそうになる呼吸を整えながら、規則的に出入りを繰り返す。
赤味を増した白い肌は、薄暗い洞窟内でひどく浮いて見えた。岩壁についた白い手がかたかたと震えながら、今にも崩れそうなこの女の体重をかろうじて支えている。
腰はこちらが両手で固定しているので、ごつごつした岩肌へ倒れ込むということはないだろう。
だが腕の力が尽きれば上半身は地面へ落ちてしまうから、その際手のひらや腕――もしくは胸――に、手酷い擦過傷を作りかねない。
(……まあ、そうなったとしてもすぐ治ってしまうだろうが)
だいぶペースや感覚が掴めてきた。
俺はC.C.の腰にあった両手を腹の方へと滑らせていった。熱っぽい体の、汗ばんだ肌が手のひらに吸い付いてくる。
そうして、ぐり、と強めに突き込んだのに合わせて上半身を折った。そのとき俺の両手はたふたふと揺れる胸へと到達していた。加減なく握ってやる。
「あぅっ……は、っあ、きゅう……に、乱暴、だな」
「存分にしてやろうと思っただけさ」
「んぁ、ひぅ……っくぁ、ああっ」
人差し指と中指の間に突起を挟んでやりながら、これまでとは角度を変えて突き入れる。
――と、やはりバランスが悪いので、左手を壁につく――ために、C.C.の体ごと前に押しやり二人でよろめくようにして、岩肌へ半歩ほど近づいた。
前屈みになっていたC.C.は少しだけ体を起こした状態になり、変わってしまった手の置き場を不器用に探している。
そのふらふらと力なく震える左手に、俺は自分のそれを重ねるようにして、岩肌へとゆるく固定した。握ったりはしない。ただ上に覆い被さって、移動できないようにしただけだ。指を置いた位置的に、すぐ握り込める形にはなってはいるが。
体勢が整ったところで、突き込みを再開する。体を揺らす衝撃に従い、右手の中で柔らかな乳房が形を変える。無論、指の間に挟みっぱなしのものを擦ったり引っ張ったりするのも忘れない。
「あっ、あう、ひゃ……っふあ!」
かくかくと揺れる肢体に自然と密着しながら、ふと目に付いた、赤く染まった耳たぶを軽く食んでみた。
「ひぁ!?」
突然の刺激に驚いたのか、びくん、とC.C.の体が大きく震えた。同時に締め付けが一気に強まる。
こちらもうっかり声を漏らしそうになったが、食んだままのそれにゆるく歯を突き立てることでやりすごした。
「っぁ、か、噛むなっ、こら……っ」
その非難に対し詫びを返す道理が見当たらなかったので、俺はそれを無視した。ただ、息がしにくかったので口は離すことにする。
そうして充分に酸素を取り入れてから――今度は唇だけで食みながら、歯形は残りはしなかったものの、周囲よりも赤くなった箇所に舌を這わせてやる。
「な、ひゃ、あっや、やめ……っ、ひぅ……!」
首どころか体をよじって逃げようとするのを、右腕で強引に引き寄せる。胸への愛撫を止めた右手でC.C.の顎を掴み、人差し指と中指の二本を口内へと突っ込んだ。
「んむ、んぅ!」
「一回だけなら噛んでもいいぞ。ただしそれ以上噛んだときは、俺も同じだけ噛ませてもらうがな」
「んく……!」
くぐもった悲鳴と吐息が、耳だけでなく指先からも伝わってくる。時折触れてくる舌が、戸惑うように咥内を彷徨っているのが何となくわかった。
それを指で捕まえてやろうと思ったのだが――どうも、こちらの余裕も残り少ないらしい。さっきからC.C.の入り口は狭まるばかりで、今にも搾り取られそうだった。
(そろそろ、限界……か)
俺は覚悟を決めると、今まで以上に強くC.C.を突き上げた。がくん、と揺れたC.C.が、小さくではあるが弓なりに背中を反らせた。壁についたC.C.の右手がずる、と10cmほどずり落ちる。
反射的に左手を握り込む。決して平らではない岩肌に指の背と関節を押し付けて、伝わってくる衝撃を受け止める。その度に皮膚と岩壁が擦れたが、いちいち痛みを感じている余裕がない。あらゆる感覚が、たった一つのそれに強制的に変換されていく。
「んん、ん、んぅ……!」
おそらくはこの女もそろそろなのだとは思うが、あれだけ強く揺さぶられても、口に挿入されたままの俺の指を噛もうとはしなかった。あったとして、衝撃で前歯が当たる程度。
……まったく、つまらんところで意地を張る女だ。
そうして、このくだらん茶番の終わりがようやくやってきた。
本能というよりは、物理的・生理的現象に近い形で蓄積された熱を吐き出す。その瞬間、俺は右手、その指を熱い中から引き抜いていた。
「っあ、あああ、あ……っ!」
掠れ気味の甲高い悲鳴をあげて、C.C.の体がひときわ大きく震える。
その後もかくかくと小刻みに震えながら、しばらくの間、白い背中に倒れ込んだ俺の右腕に抱え込まれていた。
******
ピ、と接続終了のための通話ボタンを押した。液晶画面には通話相手の名前が表示されている。
紅蓮弐式はあの白いナイトメアのおかげで戦闘能力を失ったが、移動する分には問題ない。さほど時間を待たずにここへやってくるだろう。
後ろではごそごそと衣擦れの音がしている。C.C.があの拘束具のような衣服を身に着けているのだろう。じろじろ見るものでもないので、俺はなんとなく液晶に浮かび上がる文字を見つめていた。
(……そういえば)
ふと、通話相手の少女も、昔と今では名前が違うということを思い出した。
自分とは些か事情が異なるが――本来の名ではなく、別の名で今を過ごしていることは同じだろう。
だが、今後ろにいる女には、本来の名は「今更」であるらしい。過去を捨てきったからこその発言なのだろうか。
作戦開始前の、C.C.の言葉が蘇る。
(雪が白いのは……自分がどんな色であったか忘れてしまったから、か)
C.C.は、人間らしさも含めた何もかもを忘れてしまった。本当の名前は覚えているのにも関わらず、だ。過去に何らかの形で、人間であることを止めた――と言いたいのだろうか? ……いや、止めよう。考えたところで正解が導き出せる類のものじゃない。
確かにC.C.は人間ではないだろう。身体の治癒スピードといい、ギアスを授けてくれたことといい、その能力は「人間」の幅を大きく超えている。
だが、それでも一つだけ言えることがある。
C.C.から「人間らしさ」は失われてなどいない、ということだ。
(少なくとも俺の目には、人間ではないはずのおまえが、人間らしく見えたときがあった)
例えば、ジャンクフードの筆頭ともいえるピザが好物であるところや――決して消えない心の傷に苦しみ、涙をこぼすところ。
(充分に人間らしいじゃないか。……人でなければ、そんな真似はできない。C.C.、おまえは実に――人間らしい脆弱さを持っている)
だから俺は、この女が誰かと聞かれたとき、こう説明した。
「私の大事な仲間」であると。
おまえが俺と同じだとは言わない。
おまえは人間ではないし、俺と同種の痛みを抱えているわけでもない。
けれど、心に傷を持ち、痛みを感じる存在であるという、その漠然とした事実だけは疑いようがない。
ならば俺は、おまえを「仲間」と認めよう。
駒でありながら、共に先を目指す――将来を誓い合った共犯者という、「大事な」仲間であると。
了