「んぐ……濃いな。溜めすぎはよくないぞ」
「……っ、黙れ」
「なるほど元気がいいな」
「黙れと言っている!」
声を荒げるとようやくC.C.は上体を起こした。のし掛かられていて身動きが取れなかったこちらも、再び――いや、三度か――組み伏せられないよう、急いで起き上がる。
視線の位置が見下ろされるものから見合わせるものへと変化したことにひどく安堵する。にやにやとした人の悪い笑みは相変わらずだったが、それは無視を決め込むことにした。
「ルルーシュ」
「……何だ」
「まさかこれで終わりと思ってないだろうな?」
……予想はしていたがやはりか。
「おまえにも責任は取ってもらうぞルルーシュ。でないと、割りに合わんからな」
そう言うなり、C.C.はぷちぷちと自分の服を解き始めた。止める間もなく、拘束具のような服から白い肌が露出する。
「何だ? 脱がせたかったか?」
成り行きを見守る以外の行動が取れず、半ば硬直していた俺をC.C.はそう判断したらしい。誰がそんなことを思うか!
脱がせるのにはコツがいるぞ、などと聞いてもいないことを楽しそうに言いながら、C.C.は脱ぎきった服を床へと放った。そして背中からベッドへ倒れ込む。スプリングが座った俺を揺らした。
唯一自由に動く視線を、横たわるC.C.へと向ける。
細身だが肉感的な肢体に、露出の高いレオタードのようなアンダーウェアがぴったりと張り付いている。
真っ白と思われた肌は薄く赤味がさしていて、アンダーウェアの白を際だたせていた。
「……どうしたルルーシュ。見ているだけか? まさか初心者が放置プレイなんて言わないでくれよ?」
っこ、この女……! 恥じらいとかそういったものはないのか! いやないんだろうが!
得も言われぬショックを受けている俺に、C.C.はゆっくりと体を起こした。
追い打ちをかけるように、とどめの一言を放ってきた。
「やり方がわからないなら、私からしてやろうか? おまえは転がっていればいい」
ぷつ、と何かが切れた気がした。吹っ切った、と言ってもいい。
最初は、まず何か反論しようとして――けれど、どう言い返しても馬鹿にされそうだった。
だから俺は無言でこの女を組み敷くと、
「無理をしなくてもいいんだぞ?」
からかうように言ってくるその口を、まず最初に塞ぐことにした。
やや体重をかけて、少しだけズラすように顔ごと唇を押し付ける。咥内に滑り込ませた舌がぬるりとした熱を感じ取り――躊躇しないよう即座に絡ませる。
「ふ、っんぅ……、ん」
くぐもった吐息が鼻にかかる。苦しいのか――いや、別に、苦しいならそれでいい。やられたままではいられない。
しばらくして、唇を離す。目立たないよう静かに深く呼吸をしながら様子を窺うと、はあ、と息をついたC.C.の目がすっと細まった。
「キス一つで終わりではないよな?」
挑発されている。
俺はあえてそれに乗ってやることにした。どうせ降りようとしようものなら、さらに不愉快な発言を浴びせてくるに違いないのだから。
手始めに、無遠慮に胸を掴んでやることにする。
「こ……こらっ、乱暴にするな」
「おまえが望む通りにしてやってるだろう。それに、どのようにしろとは言われていない。ならば俺の好きにさせてもらうまでだ」
ぐ、と手のひらに力を込める。小さくもないが大きすぎるわけでもない脂肪の塊が、手の中で不格好に形を変えた。
「は、これだから女を知らない坊やは、……っ、身勝手で困る」
「……身勝手なのはどっちだ」
本当に口の減らない女だ。
口から出てくる文句以外、抵抗らしい抵抗を見せないC.C.の様子を探りながら、未だ力加減もわからぬまま両手を動かす。
そのうちに固くなってきた先端を弄ってやると、小さい反応と息を呑む音を確認できた。そこを重点的に攻めてやると、次第にC.C.の呼吸が荒くなっていく。
やがて――数分前と比べ、張りのなくなった小さめの声が俺を呼んだ。目だけで先を促す。
「先ほどから、気になっていたのだが……何故脱がさない?」
俺は口を開くことなく、規則的に――唐突に動きを変えないよう――手を蠢かすことに集中した。
それは俺が無意識に避けていたことだった。図星を指されたといってもいい。
しかし、このまま黙っていても怪しまれるだけだ。それどころかいらぬ勘繰りまでされかねない。
「……好きにさせてもらうと言ったはずだ」
そうして、『初心者らしく』行為に集中しているように見せかけようとしたのだが――あっさりと阻まれた。
左胸を掴んだ俺の右手を包むように、C.C.の白い手が重なる。上から優しく抑え込まれ、俺の手は動きを止められてしまった。
「何の真似だ」
「それはこちらのセリフだ。……ルルーシュ」
呼ばれた俺の名だけ声色が違った。熱っぽさを残しつつも、普段の冷静さを取り戻したような。
見れば、C.C.の瞳には鋭さが戻っていた。
自然と緊張が高まりながらその目を見返していると、研ぎ澄まされつつあった鋭さがふっと緩んだ。開いた口から零れる声からも、硬質さが消え失せている。
「私なら気にしない」
「……何のことだ」
「とぼけるな。おまえは知っているはずだろう? ここに何があるのかを」
C.C.の手に軽く力が入り、俺の手が奴の左胸へ押し付けられる。押し付けられながら、手の位置をやや下方へずらされる。
「ここ」にあるのは――
「確かに、見ていて気持ちのいいものではないだろうが――」
「勝手に決め付けるな」
俺は反射的に、C.C.の言葉を遮っていた。
反論すべき点はいくつかあった。
俺がそういう気持ちになるかどうかはわからない、自分の身体を気持ちのいいものではないなどと思うな――等々。
だがそれら全てをいちいち挙げるのも馬鹿馬鹿しい。だから俺は、一番端的な言葉だけで奴の言い分を否定してやった。
C.C.はきょとんとした表情を見せたが、俺の言いたいことは概ね理解したようだった。ふ、と苦笑じみた笑いを口元に貼り付けて、やれやれといった表情を見せてくる。
「――ならばルルーシュ。ちゃんと見ろ」
これは私の業のようなものだ、と小声で――というよりは、弱々しい声で――呟く。
「おまえが私と契約すると言うのなら、契約する相手がどんな業を持っているのか、しっかり見ておくべきだ」
ゆっくりと、胸を掴みかけた状態の俺の手が引っ張られていく。その際、C.C.はその細い指先にアンダーウェアの端をひっかけさせた。それはするり、と容易くめくれる。
「……」
露わになったそこへ、俺は無言のまま、やはりゆっくりと左胸へ手を伸ばした。
指先だけで膨らみの輪郭だけをなぞり、下方へと滑らせて――見た目そのままの、ざわりとした感触に触れる。
努めて表情を消しつつそうしていると、小さな苦笑が耳に届いた。
「私は見ておけ、と言っただけだ。何も無理に触ることはない」
「……触っても問題はないんだろう?」
「ああ。全くない」
「だったら黙っていろ。嫌な時だけ言えばいい」
傷痕を、十字を書く要領でなぞった。
「ほう? 嫌だと言ったら聞いてくれるのか?」
俺は今、こいつの業に触れていると、そういうことなのだろうか。
確かめるようにもう一度、指を滑らせる。
「さあ、どうだろうな」
こうすることで何かを感じられるかといえば――微妙なところではあった。
けれど俺は確かに、C.C.に触れているのだろう。
「ふ……本当に身勝手な奴だ」
「おまえほどじゃない」
こいつが簡単に他人へ見せたりしない何か。
「秘密」などという単語で括るには乱暴すぎるそれに、今俺は触れている。それだけは間違いがなかった。
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