「ん、っあ」
 膝上に乗せて後ろから抱きしめる格好になって、服の袂から遠慮なく手を差し入れる。どこまでも柔らかな感触が指先から手の平全体に伝わって、それだけに没頭しそうになる欲望をかなり必死に抑え込んだ。
 それでも、登頂に指を滑らせて押し込んだり挟み込んだりするのは止めない。噛み殺した声と、閉じようとする唇の間から漏れる呼吸音が聞きたいから。できれば噛み殺さないやつも聞きたいのだけれど、一回きりと限定されてしまっては聞くのは難しいかもしれない。
 そんなことを思いながら彼女の胸を堪能して――さっきからお預けをくらっていた片方の手がようやく、脱がしにくいことこの上ない彼女の黒のアンダー(もちろん下の方だ)を、該当部分だけ剥くことに成功していた。
「は、あ……や、ゼロっ……」
「急ぐんだよな?」
「そう、だよっ……!」
 さあ始めようかという時に、彼女はもう一つ条件を出してきたのだ。曰く、時間はかけるな。
 狙っていた所に先手を打たれ、けれど頷く以外に事態を収拾する術はなく、仕方なしにハイハイと了承した。早く楽になりたいという点においては、賛同すべき意見ではあったし。
 外気に晒されたそこへやはり無遠慮に指を這わせると、僅かではあるが湿り気を感知できた。
 声を出すまいとしていたくせに、先ほど急に名前を呼ぼうとしたのは、咄嗟に静止をかけてしまったと、そういうことのようだ。
 納得して一度耳たぶを甘噛んでから、そっと囁いた。
「準備いいな?」
「ちがっ」
 反射的に振り向いた顔の、艶めいた唇を強引に塞いだ。
 両手が塞がっていたので少し目測を誤ってしまい、重ね合わせる角度を変えながら何度も触れて離れてを繰り返し、正確な位置へと修正する。
 いつしか侵入していた咥内で舌を絡め取り、弄くる胸を左から右に移動し、潤いが増してきた中へ指を埋め込んだ。
 彼女が苦しそうに身をよじる。
 ようやく覚えてくれた鼻呼吸は切なげな吐息を漏らすばかりで、こちらの動きは止めようがない。
「ん、ふ……んぅ、――っ!」
 高い熱を帯びたしなやかな肢体がびくりと大きく痙攣する。
 やりすぎたと思っても今更でしかないので、ひとまず、抵抗が消えた咥内を抜け出した。
 荒くて不規則な呼吸が間近で響く。当人としては息苦しさとかで必死なんだろうが、こっちからすれば熱っぽいお誘いにしか見えない。
 ぐったりと預けられた気だるそうな体を――いっそ二度と動かなくなるまで――どうにかしてしまいたく、なる。
「しいな。いい?」
「……よく、ない」
「ダメ?」
「ダメっつっても、やるんだろ……」
 諦めまじりで賜った了承に、まだ動けそうになさげな体を、締め上げない程度に抱きしめた。





 まずは、もう一度彼女の顔を振り向かせ、ただ触れるだけのキスをした。
「ん……っ、ぁ」
 離して、はあ、と大きく酸素を取り込むのを待ってから、今度は中で触れるためのキスをする。
 捕らえた舌をしばし拘束して、それから彼女の歯の裏側をさっと撫で上げて、びくりと反応したのに満足を覚えながら、ようやく自分も酸素を取り込んだ。
「そんじゃ」
 指先で探った具合に問題がないことを確認して、素早く自分も衣服を緩める。
「しいな。すこーし、腰上げて」
「……っ」
「もちょっと力抜いて」
「できるかっ……ぇ、あ、っ――!」
 反論なんか当然無視。
 上からは抱え込んだ体を押さえつけるように、下からは自身を突き入れて、やや強引ながらもいたってスムーズにそこへ収まりきった。
 彼女の中で脈打つ自分に、先がそれほどないことを理解する。彼女からは顔が見えないのをいいことに、隠すことなく苦笑した。
 「急げ」という彼女の指令。それに限りなく順応している自分が、あらゆる意味で可笑しかった。
「じゃ、急ぐぜ」
「っひ、ゃ……っあ!」
 グラマラスな体つき――主に胸あたりが――にしては細い腰を両手で固定して、単純な前後運動の手助けをする。
 がくがくと揺さぶられる彼女は唇を噛もうとし、けれど喉からせり上がってくる悲鳴と揺れの酷さに実行することができず、切れ切れの矯正と吐息を交互に繰り返すばかり。
 予想外の速度で自分を支配していく快感に身を委ねながら、ぼんやりと思う。

 ――「全権大使」を任せられる者はおらぬだろうか。

 晩餐会の場で、たわいのない歓談の中ぽつりと出された一つの提案。
 たった今思いつきましたくらいの、内容の重要性を感じさせないひどく軽い言い回し。
 それは国王なりの、場を白けさせないための巧みな話術であったのかもしれない。
 王族として育ったことのない、たかだか一貴族の自分には――「神子」と「王様」の役職なんて比べられたものではない――、その処世術を非難する権利は一つとしてなかった。
 そもそも自分は、そんなことを指摘できるほど褒められた生き方はしてきていない。
 そうですなあ、確かに必要ですなあ、どなたか心当たりはありませんかなあ、のらりくらりと各代表は責任をたらいまわしにして、気が付くと次の話題に移っていた。
 事の重要さには大いに賛同したものの、そんな周囲の反応を見ているうちに面倒くさいという思考が広がる。
 そんなとき、ふと思いついたのだ。

 「全権大使」なんていう世界レベルの役割を押し付けられた彼女が、同じく世界救済の象徴たる「再生の神子」だった自分と似たような目に遭ってくれて――そうしたらもっと近くなれるんじゃ、ないのか。


 はじまりは、そんなどうしようもない愚考だったのだ。

 二つだったものが一つになり半強制的に平和への道を邁進するこの世界。
 たった二文字の「平和」という理想の名のもと、理不尽な要求を呑むしかない多くの人々。
 彼らの感情の矛先は、一つでしかない世界の中で、目立って行動する存在へと収束する。
 何故なら、前に立って行動する者には、それだけの責任を負う覚悟があるからだ。その重責と対価に、己の望む方向へ世界を動かすことができる。
 だから、容赦なく叩きつけられてしまうのだ。たくさんの人間の思いが固まった、ひどく大きな怒り。悲しみ。憤り。

 それを彼女はどう受け止めるのか――考えるでもなく想像がついた。目を閉じれば瞼の裏に浮かぶようだった。

 彼女はきっと、大いに悩んだり苦しんだりしながら。
 それでも最後は、強く強くただまっすぐに立ち向かっていくのだ。

 たぶん、その背中が見たかったのだろうと、思う。

 自分には決してできそうにないことをやり遂げる、大きくはない背中を。
 いつしか自分を置いていくに違いなさそうな、しゃんと伸ばされた背中を。
 手を伸ばす覚悟がついたときにはきっと届かなくなっている、彼女の背中を。

 そうしていつか、首だけを振り向かせた彼女の表情は、笑顔であるに違いなかったから。


 爽快な眩しさでもあり、痛烈な一撃でもある、その瞬間を。
 己を容赦なく切り刻みながら、わずかばかりを癒してくれるそのときを、昔から、今もなおずっと、求め続けて――



「ひぁ、っあ、ゃ……っ――!」
 声にならない悲鳴と、わずかな痙攣を伴って仰け反る背中。
 それらをぼんやりした感覚の中に知覚して、それがもう少し先のことならいいな、と唇を歪めた。





 汗だの何だので色々乱れた衣服を直すのも馬鹿馬鹿しいということで、彼女を風呂に案内し、入ってくるなと追い返される。
 情事を終えたソファに座っているのもやはり馬鹿馬鹿しい気がしていたが、そのまま書類に目を通す。数枚終えたところで、ぐったりと身を投げ出した。
「……能率、上がってねぇでやんの」
 さてどうしたものか。
 断続的に響くかすかな水音に耳をすませながら、明日一日でどれだけ遅れを取り戻せるかと、その方法を必死で考えた。






 話の持っていき方は男性向けっぽい(エロ寄りで強引)のに中身がひたすらヌルすぎるというのはどうなんでしょうか。
 これを書いたのは随分前のことで、まだゼロしいについて模索している段階だったので、「とりあえずエロ、しかしNotいちゃラブ」を目指していたような気がします。
 どうにかマトモな話に持っていこうとドラマCDネタに強引に繋げてはみたものの、完全に逆効果だったような気がします。がくり。
 色々ものすごい中途半端ですいません。

 何にしてもゼロしいは極端なので扱いに困ります。
 いちゃこかせるか殺伐とさせるかのどっちかしかないって本当どうなの(というかそんな認識でいるの半ば身内だけっぽいよ)(……)

(2005/12/15 up)

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