飽きた、というわけではなかったが――アポロはそこから顔を上げた。
 泣きそうな目でこちらを見上げるシルヴィアが、肩を揺らして呼吸を繰り返している。また泣くのかこいつは、とアポロは眦に舌を伝わせた。反射的に閉じた瞳から滲んだそれを一つ残らず舐めとると、何とも言えない満足感を覚えた。
「なに、考えてんのよ、あんたはぁっ……」
 シルヴィアが力なく言う。
「知るか」
 答えるのも面倒そうに返すと、アポロはシルヴィアの腹を無造作に撫でた。
 びくりと跳ね上がる体を押し付けるように、さらに手のひらを這い回らせる。やはり汗ばんだそこは、滑らかな瑞々しさを備えて、アポロに物事を考えさせない。
 滑っていく指先がシルヴィアのショートパンツにかかった途端、熱と不可思議な感覚に流されていたシルヴィアが一気に覚醒した。
「やっ……!」
 アポロの手が細い両手に掴まれる。そこでアポロも、今始めて気付いたように顔を上げ、シルヴィアと目を合わせた。
「……なんだよ」
「なにって、な……なにするつもりなのよ、あんたはっ」
「なにって」
 何だろう――アポロはようやく疑問にたどり着いた。今自分が何をしているのか、何をしようとしているのか。
「わかんねえけど。でもお前気持ちいいみたいだし、悪かねえだろ」
「悪いわよ!」
「なんで」
「なんで、って……」
 シルヴィアは口篭もる。最初に聞いたのはこちらなのに、けれど聞き返されれば自分だってまともな答えを用意できない。
 抗議する理由はある。けれど、それを明確に、何よりこのアポロにもわかるように説明できるかといえば答えはノーだった。無理だ。不可能だ。
(私にだってよくわかんないんだから当たり前じゃないの……!)
 シルヴィアは心中で悲鳴をあげた。
 あげたところでどうにもならないが、こっそり取り乱してみれば少しだけ落ち着いた。かといって答えが見つかるわけでもなかったが。
 仕方なく――わからないままに、胸中を言葉にしてみる。もしかしたら、この大馬鹿にわかってもらえる可能性も、ないとは言えないのだから。
「こ、こういうこと、は……その、好きな相手と、好きな同士がする、ことでっ……」
 その後はシルヴィアには続けられなかった。明確な言葉にしてしまえば、何となくだったが、このアンポンタンを傷つけてしまうかもしれないと思ったのだ。
 何より、そのことで一番傷つくのは自分であるような――そんな気がして。
(こいつのことは嫌いじゃ……ないけど。お兄様に比べたら全っ然何ともないけど、好き、といえば好きな部類に入るかもしれない、し……)
 ちらり、シルヴィアはアポロを窺おうとして、反射的に後ずさった。アポロが眼前に迫ろうとしていたからだ。
「な、なによっ?!」
「触っても嫌じゃないんだろ?」
「い、嫌っていうかっ、あ、あんた人の話聞いてなかったの?!」
「聞いた」
「ならなんでっ――」
 アポロが顔をさらに前へ突き出した。シルヴィアが思わず言葉を飲み込むと、アポロはどこか憮然とした表情で、ぶっきらぼうに言う。
「俺、嫌いな奴にべたべた触ったりしねえけど」
「――え」
「お前は嫌いな奴にもそうすんのか? 変わった奴だな」
「え、あ、アポロそれどういう意味……って、ええ?!」
「……るせえな」
 黙ってろよ。
 そう吐き捨てて、アポロはシルヴィアに唇を重ねた。
 アポロからすれば合理的な方法だと思ったから取った手段であって、他意はない。仮にあったとしても、アポロにそれを理解できる余裕は何一つとしてない。
 あるのはただ一つ――シルヴィアに触れていると心地いいから、だから触れたい。
 本能的な感覚、それのみだ。

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