C.C.にかけてやっていたマントを、裏地を上にして地面に広げた。俺はそこに腰を下ろすと、開いた足の間に俺と同じ向きでC.C.を座らせた。
 もっとまともな場所――床が平らな室内であるとか――であれば、最初に部屋に入り込まれたときのように組み敷いてやろうと思ったのだが、洞窟のごつごつした地面の上に、薄くはないが厚くもないマント一枚を挟んだ程度では、横になったこいつの背中が痛むと思った。
 無論、銃弾を受けても死なないような女なのだから、そんなことは気にする必要はないのかもしれない。
 だがそんな俺の無用な気遣いは、こいつにとって「余計なこと」でしかないのだ。そして、こいつは俺が「余計なこと」をするのを嫌がっている節がある。
 だから、あえて俺はこの体勢を選ばせてもらった、というわけだ。
 それに、この体勢ならこの女に顔を見られることもない。逆に、俺がこの女の顔を見ることもない。その方がきっとやりやすい。
 これは俺の一方的な嫌がらせなのだ。この女から何らかの反撃を受けることは望ましくない。そう例えば、外れかけた仮面の下の表情を指摘されるなど――冗談ではない。
 ひとまず、俺は大人しく座り込んだC.C.の胸を両手に掴んだ。
 肩口から覗き込むようにしないと前がどうなっているか見えないので、探るようにして手のひらを動かす。すると、C.C.の呼気が少しずつ深くなっていく。
「っ……どうした、ルルーシュ?」
「何がだ」
「ずいぶんと、左手に……っ、力が入っていない、ようだが?」
 息を呑んだのが伝わらないように、俺は力加減を変えないまま無言を押し通した。
 その間にうまい言い訳を考えていたのだが、くそ、うまく頭が回っていない。これだからこの女は油断ならない……! こちらには反撃に対し、返り討ちや倍返しにする余裕はないというのに!
「ふふ……これを、気にしているのか?」
 C.C.の細い指先が、左胸を掴んでいる俺の手――人差し指を軽く摘み、盛り上がった皮膚を強引になぞらせた。
「気持ち悪いだろう?」
「そうでもないさ」
「強がらなくてもいい。声が強張っているぞ、ルルーシュ」
「……」
 実際、気持ち悪いとは感じていなかった。指先をすぼめることで手のひらに返る、ひどく柔らかな弾力のおかげで、胸を弄るのを止める、という考えには未だ至っていなかった。
 口を噤んだのは決して図星だったからではなく、言えば言うほどこの女の術中に嵌る、そんな予感がしたからだ。指摘通り、発声に余裕が回せなくなっていることもあるにはあったのだが。
 常識的に、そんなことはないだろうとわかっていながら――それでも、俺はあえて尋ねた。言葉を噛んだりしないよう、心中で深呼吸をしてから。
 そう、俺は今「余計なこと」をしている。そして、やるならば徹底的にやるべきだ。
 だから俺はただ、自分の信条に従ったにすぎない。それだけだ。
「痛みはないのか」
 するとC.C.は今し方の俺のように、無言になってしまった。
 手の動きは止めず、力加減も最初から一つとして変えず、俺は目の前の後頭部を見つめながら回答を待つ。
 やがて、その頭がかく、と揺れた。
「は……はは、ルルーシュ、何だそれは、場を和ますための冗談のつもりか? ふふ、ははは、あまりにも馬鹿馬鹿しすぎて笑うしかないぞ」
 本気でツボにでも入ったのか、C.C.はくっくっ、と小刻みに体を揺らして笑い続ける。
「冗談に聞こえたか?」
「何だと? ではまさかおまえ、あれは本気だと言うのか? はっ、ますます笑うしかない……!」
 C.C.は失礼にも、笑いすぎで軽く咳き込んでからようやく、その意地の悪そうな笑いを止めた。乱れた呼吸を整えながら、時折思い出し笑いのように吹き出しつつ、言った。
「おまえはもっと賢い奴だと思っていたよ。ふ、私の見込み違いだったかな?」
「……そんなに頭の悪そうなことを言ったか?」
「言ったとも。傷痕だぞ? それもどう見ても最近ついたものではない、それをだ。触って痛いかと聞いたんだぞ、おまえは?」
 言い終えたC.C.はまた込み上げてきたのか、再び体を震わせて笑い出した。
 ……くそ。わかっていてやったこととはいえ、実際に指摘されると腹が立つ。
「まったく。笑いすぎて涙が出てきた」
「悪かったな」
「ふふ……本当に、おまえは面白い。気にしなくていいぞ、痛みも何もない。ついでに、感覚がなくなったわけでもないからな、ちゃんと右側と同じように感じることができる」
 C.C.はか細い両手を、胸を掴んだままの俺のそれへ重ねると、少しだけ上から押し付けるようにした。
「存分にやってくれ、ルルーシュ」
「……なるほど。遠慮はいらないと言うわけだな」
「そうだ。まだ全然、私の体は温まっていないぞ」
 挑発的な言葉に、俺は両手に同じぐらいの力を込めて、手のひらにある弾力を押し潰した。
 下から持ち上げるようにして、俺の手のひらからこぼれそうになるそれをどうにか手の中に収めようと、何度も形を変えさせる。
「は、っ……なんだ、やれば、できる……じゃないか、ルルーシュ」
 C.C.はからかうように言った。俺はそれに、手の動きで応えてやる。
 ぐにぐにした柔らかさの中で、唯一硬さを主張するそこを指先で刺激してやった。すると、っひ、と明らかにこの女が意図しないであろう声色を聞くことができた。
 少し気を良くした俺は、重点的にそこを責めてやることにする。
「ん、っぁ……ワンパターン、すぎるな、おまえ……っは」
「存分にやれと言われたからな。まあ確かに、守りの弱そうなところから攻めるのは戦術としてはワンパターンかもしれないな。だが――」
「ふ……んっ、あ!」
「実に効果的だ」
 体に力が入らなくなってきたのか、C.C.の体がこちらにゆっくり倒れ込んできた。
 もたれかかってきた体重は軽くもないが重くもなく――何故か、ひどく心地良かったのを覚えている。

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