許可を取って上品な薄布を引き落としてみると、先ほど布越しに感じた通り、そこはしっとりと水気を帯びていた。
不安そうに名前を呼んでくるユフィの顔に口づけをいくつか落としてから、スザクはそっと指を伸ばす。
「っあ、ぁ……っ、や、スザ、ク、そん……っ!」
「ユフィ」
左手でユフィの手を握ってやりながら、スザクは指先を少しだけ奥に進ませた。
びくり、と震えた体がその強張りを緩めるまで単調な動きを繰り返し、そしてまた奥へと触れていく。
耳に届く張り付くような水音が示すように、右の手指がだいぶ湿ってきている。スザクは沸き上がる衝動をぐっと堪え、指の動きを僅かに激しくした。
「はぁ、っあぁ、ん、っ……」
ユフィは握られた手を必死に握りかえして、与えられる刺激をやり過ごしている。やや性急すぎただろうか、と思ったが、実際時間がないのは本当のことだった。それでいて、初めての相手になるべく負担を少なくしなければならない。
場数はそれなりに踏んできてはいる。だがそれらは、スザク当人の方が「初心者」という位置づけであることが大多数で、逆の立場というのはほとんど経験がない。
とにかく、気を遣すぎて悪いことはないだろう。スザクはそのことを改めて念頭に置いた。
(……やっぱり、もう少し慣らした方が)
スザクが右手を退かせると、ユフィの潤んだ瞳が不安そうに揺れた。もう一度その目元や瞼にキスを降らせ、スザクは己の位置を変える。
右手を触れさせていたそこへ、今度は舌を這わせた。
「ゃあっ……! スザクだめ、だめっ、そんなこ、っや、ひゃう……ッ」
唾液を塗りたくる必要はないようだが、まだそこは閉鎖的と言ってもよかった。時折吸い上げてみたり、舌先でつついてみたり、スザクはユフィへ言葉をかけるのも忘れて、ただ行為に没頭した。
ユフィの声は次第に切れ切れになっていき、
「ぁ、あ、んぅ、っ……っは、ぁ、ゃあっ」
既に言葉ではなくなった、高く甘く響く悲鳴に似たそれを、もっと聞いていたいと思いかけて、
(……って、そうじゃない!)
唐突に、スザクは我に返った。
「ユフィ!」
がば、と体を起こす。ぼんやりとして、妙に潤んだ瞳と目が合った。
「……っ」
一瞬のうちによぎった様々なものを何とかやりすごして、スザクはユフィの上に覆い被さるような体勢をとった。
覗きこんだ顔は上気していて、薄く開いた艶かしい唇からはまだ荒い呼気がこぼれている。
「ごめん、ユフィ……」
優しく唇を押し付けて半乾きの涙を吸い取ってやる。
ユフィは目を閉じてされるがままになっていたが、やがてのろのろと腕をあげてスザクの頭を抱え、
「ぐえっ、ゆ、ユフィ!?」
がっちりと、両腕で首のあたりを固めてしまった。それはもう落とさんばかりの力強さで。
それもどうやら本気で力をこめているらしく、ユフィの呼吸がさらに荒々しくなった。擬音にするなら「ぜえはあ」といった風に。
「ゆ、……ユフィごめんあの、……本当に、首が」
「――……反省しました?」
さっとスザクの顏が青ざめた。
初めてのことだし、何か混乱して関節技をキメているのではないか――などと思っていたスザクからすれば、まさか全て理解した上で意趣返しとして固められているという事実は、あまりにも衝撃的だった。
何ということをしてしまったのだ、という激しい自責の念がスザクを急襲する。
「し、しました! あの本当にごめん、すみませんでした申し訳ありません……!」
「あ、二人きりなのに敬語を使いましたね? 三十秒追加します」
「そ、そんな……」
それならさっき君だって「わたくし」って言ったじゃないか……、とはさすがに口にはできず、きっかり三十秒後に解放されたスザクは、やや頬を膨らませたユフィに本当にごめんと謝った。
やがて謝罪だけでなく再発防止策とそれについての目標まで語り出し始めたところで、ようやくユフィは相好を崩した。
そして、謝り通していたスザクが顔を上げたのを見計らって、わざと悲しそうな顔で俯いてみせる。
「私、ちゃんとだめって言ったのに」
「そ、それについては、ええと、その……返す言葉もありません……」
再び頭を下げようとするスザクを、ユフィは笑って止めた。
「いいの! えっと、……誘ったのは、私……になるんだし、その、何をされても文句は言えないっていうか、……スザクにだったら、別にいいっていうか……」
「……」
もごもごと濁した語尾をしっかりと聞き取ってしまったため、心中の葛藤を表面に出さないようスザクは全力を尽くさねばならなかった。
「……スザク?」
「えっ、あ、うん。な、何かな」
「平気? 首、やっぱりやりすぎちゃったかな……」
心配そうに覗き込まれ、スザクの視界にユフィが広がる。
自然、視線がその唇にばかり向いてしまい、耳ではなく口の動きで彼女の言うことを理解した。
「くび……ああ、うん。平気だよ。……まあ、ちょっとまだ痛いけど」
「ごめんなさい。調子に乗りすぎちゃった」
「いいよ、自業自得ってやつだし。でも、どこであんな技を」
「あれはね、お姉様に教えてもらったの。人前に出ることも多くなるなら、護身術の一つも覚えておいた方がいいって」
「……へ、へえ」
どことなく背筋に寒気を感じながら、スザクは乾いた笑いを浮かべた。
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